2010.06.16 Wednesday
ボタニカル・ガーデン
十九世紀帝国主義の最盛期に、七つの海にまたがる大英帝国は世界中から色んなものを持ち込んで、大英博物館に代表される博物学という学問の王国を作ってしまったが、イギリスの庭には、その王国に連なる植物園(ボタニカル・ガーデン)という側面だってちゃんとある。セント・ジョンズ・カレッジの裏庭がなんとも不思議なパースペクティブを見せていたのは、この植物園という学問(アカデミズム)が平気でメルヘンという異質を見せてしまっているからだ。
学問(アカデミズム)世界は『不思議の国のアリス』と地続きで、それ自体が『秘密の花園』であって、植物学(ボタニー)が『不思議の国のアリス』の背景(バック・グラウンド)を作っていたりもするんだから、本物の学問という男はかなり色っぽいものであってもいいのだが、しかし残念ながら、醒井凉子にはまだそこまでのことがよく分からなかった。
(橋本治「雨の温州蜜柑姫」講談社)